ビッグデータの活用は、現代でビジネスを成功させるために欠かせない戦略の一つです。IT用語辞典によるとビッグデータとは「従来のデータベース管理システムなどでは記録や保管、解析が難しいような巨大なデータ群」のことをいいます。これらの膨大なデータをAIを使って分析することで、作業の自動化と精度の向上が可能となるのです。

様々な場面で活躍するビッグデータですが、特許調査においてもその力を発揮します。特許は企業のイノベーション戦略にとって死活問題です。近年知的財産が注目されるようになったことで特許の出願数は大幅に増加し、従来の調査法では追いつけないほどに情報量が膨れ上がっています。特に新規市場に参入する際は、事前のFTO調査を念入りに行うことが重要です。すでに現地で他の企業が持っている特許が参入の障壁になることもあるからです。

ビッグデータを活用すれば、事前調査に加えて参入後の特許侵害の監視も効率的に行うことができます。

と言うわけで今回の記事では、企業がイノベーションの競争力を高めるため、特許のビッグデータの活用事例をご紹介します。

東アジアで特許出願が増加

近年ビジネスの成長や持続性を促進するためのツールとして、特許や商標といった知的財産(特許)を活用するイノベーション企業が増えています。

それを受けて特許の出願件数も増加傾向にあり、世界知的所有権機関(WIPO)が公表した最新の統計によると、世界の商標出願数は2019年の1513万件から2020年の1719万8300件へと13.67%増加し、特許出願数も2019年の322万6100件から2020年の322万6700件へと1.58%増加しています。

実はこれらの多くはアジア、特に中国、日本、韓国からの出願であり、2020年に行われた世界の出願活動の実に70%以上を占めています(下記参照)。

東アジアで特許出願が増加

アジア地域(斜線部分)がIP出願活動の大部分を占めたことを示す 知的財産出願活動の地域別割合(2020年)
出典)WIPO IP Facts and Figures 2021

 

2020年の商標出願件数は934万5757件(2019年比30.8%増)、2019年の出願件数は149万7159件(同比21.5%増)と見て分かる通り、中国が世界の特許出願数の増加に多大な影響を与え、世界の経済・技術大国と見なされるようになったことは間違いありません。このデータから、少なくとも世界の特許出願の3件に1件は中国からの出願であることが分かります。

特許や商標出願の件数が増加するにつれ、様々な情報を日々記録し更新することの必要性も高まってきています。

もちろん各国には独自のデータベースが存在し、申請者のデータを全て継続的に記録していますが、これらのデータベースは非常に規模が大きく複雑であるため、特に新興国ではデータが未整理のまま散在していることも多いです。しかし、実はこれらのデータは組織のイノベーション戦略を構築する上で非常に有用で、市場における様々な問題を解決するため、継続的に特許ビッグデータの分析ツールの開発が行われています。

ここからは、どのような問題に対してビッグデータが活用できるのか、例として3つの方法をご紹介します。

 

特許ビッグデータ活用事例

活用事例①FTO調査(Freedom to Operation Analysis)

侵害予防調査やクリアランス調査とも呼ばれるFTO調査。自分がターゲット市場で商品化しようとする製品またはサービスが、既にその市場に登録されている他の知的財産権(特許によって守られているブランド、製品の特徴、形状、構成など)と類似していないか、侵害の可能性がないかを専門家に頼んで調査・分析する作業です。

多くのビジネスプロや起業家はこのような作業の経験がなく、その重要性も未だ認知されていません。販売者が商用活動を行いたい製品の類似商標や特許をターゲット国で調査・分析するのがFTO調査の基本的な流れです。

例えばシンガポールで新製品を販売する場合はシンガポール市場の調査を行い、他社製品を侵害する可能性がないかを確認します。

もし見つかった場合にはその可能性を排除する必要があります。

この際にビッグデータを活用すれば、関連性のある特許の情報を世界中から瞬時に集めることが可能となり、第三者の知的財産権を侵害することなくより大きな規模からその市場、類似製品・ブランド、また市場参入の可能性を見極めることができます。

FTO調査で収集した情報を活用すれば、ターゲット市場で自社の知的財産権を守るための効果的なビジネス戦略を構築することもできます。オリジナルの特許保護やブランディング、マーケティングコンセプトで競合社に差をつけましょう。

活用事例②オンラインで特許侵害を監視

ますます成長するEコマース(EC)やデジタル化は、多くの現代ビジネスにとって鍵となるトレンドです。

しかし残念ながらトレンドが大きくなるにつれて、人気ブランドやアーティストの作品のオンライン模倣品、詐欺、権利の侵害も増加するようになりました。

特に多くのブランドがNFTやメタバーススペースでプロモーションを行うようになってからはこのような問題が増加し、ブランドやアーティストの多くが収入源の侵食や、努力して築き上げたブランド・コミュニティに対する名誉毀損に頭を悩ませています。

このような問題に対処する方法として、ビッグデータツールの活用が鍵となります。特に商標データベース(例: ターゲット市場のもの)、SNSやチャット機能(例: Facebook、Twitter、Tik Tok、Discord)、ECサイト(例: Amazon、Lazada)などから継続的にデータを取得・監視し、運営停止や権利強化を効果的に行うことができるシステムは今後様々な業界において主要なツールとなることが予想されます。

これらのツールを活用することで偽物や無許可で運営されているウェブサイトやオンラインショップ、また所有者のウェブサイトで発生する悪質行為(詐欺やフィッシングなど)をほとんど24時間以内に特定、警告、運営停止することが可能になります。

商標登録はブランド保護の第一歩に過ぎません。常にこのような問題に警戒し対処するには、ビッグデータ監視ツールの活用が必要不可欠になるでしょう。これは自宅やオフィスに設置し、有形資産が盗まれないよう監視・警告してくれる監視カメラと同じような存在です。

ただし現代はほとんどの企業にとって有形資産よりも無形資産や特許資産の方が価値が高いため、このようにビッグデータを活用してオンライン監視を行うことが重要です。

活用事例③ イノベーションの創出と市場機会の発見

特許、非特許文献、またその他市場や産業に関するインサイトデータを統合できるビッグデータツールの活用は、イノベーターがその業界で大きな影響力を持つ関連技術やイノベーションのトレンドを理解するためにも極めて重要です。

特定の技術の成長や衰退、競合社や協力企業の研究開発活動、今後2~3年の間に市場に登場する新製品、開示された技術の利点と欠点を分析できることに加え、「ホワイトスペース」と呼ばれる未開拓市場に向けた新技術の開発、早期の特許出願、そして新しい技術領域を制するためのIPポートフォリオの構築にも役立ちます。

強力な特許ポートフォリオを構築し特定の技術領域を制することができれば、新たな収入源(ライセンス、フランチャイズ、戦略的提携など)が生まれる可能性も高まります。またこれにより、強力なIPポートフォリオを好む傾向にあるエンジェル投資家やVC(ベンチャーキャピタル)を惹きつけることもできます。

例: 特許に基づくイノベーションの分析・可視化のためのビッグデータツール「Patsnap」(下図)

特許に基づくイノベーションの分析・可視化のためのビッグデータツール「Patsnap」

 

特許ビッグデータの活用はイノベーションビジネスに不可欠!

今回ご紹介した方法は特許・イノベーション分野におけるビッグデータ分析の一例です。ビッグデータの活用は、近年多くの業界において必要不可欠になりつつあります。IDGでは、ビッグデータツールを用いてお客様のビジネスやイノベーション力を強化するサポートをしています。さらに詳しく知りたいお客様は、ぜひお気軽にご連絡ください。

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