日本市場のパイは小さくなるばかり
日本の総人口のピークは、1億2,808万人でした。2008年にこの数値を記録して以降は、減り続けているのです。今後、日本経済が縮小していくと考える経済の専門家は少なくありません。
かつては中国
そこで、海外へ目を向ける日本企業が増えています。「海外」というと真っ先に思い浮かべるのが、これまで高度成長を続けてきた中国でしょう。1980年ごろから経済開放政策を進めてきた中国は、海外企業の進出を進んで受け入れてきました。また、中国の広大な土地や安価な労働力が豊富な点に魅力を感じた海外企業も、中国でビジネスを展開するようになりました。
ところが、経済発展を遂げた中国では、原材料費や人件費が上がってしまったのです。中国の高度成長についても2020年代半ばには、終わりを告げると予想する専門家が増えています。
タイの基本情報
今後も成長が続き、ビジネスでの優位性が見込まれている市場はタイです。
東京とタイの首都・バンコク間はおよそ4,600kmで、2倍以上の物理的距離があります。タイの国土は、日本の1.4倍ほどで、人口は約6,800万人です。国民の約95%が仏教徒と言われています。
引用元:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/nousui/pdf/country9.pdf
タイの経済は?
2000年以降に、タイの実質GDP成長率がマイナスとなったのは、リーマンショックの影響を大きく受けた09年のみ。
また、国民の平均的な豊かさを示す1人あたりの名目GDPは。7,336ドル(IMF推定値)です。1990年には1,564ドル(IMF統計)だったものが、31年で4.69倍にも増えました。
2019年には8,177ドルでしたが、翌20年には新型コロナウイルスの影響で7,550ドルまで落ち込みました。しかし、21年になると7,645ドルまで回復しました。
かたや、日本では90年代後半から、この数値がほとんど伸びていません。90年に25,896ドル(IMF統計)だった日本の1人あたり名目GDPは、21年になっても39,340ドル(IMF推定値)。増えてはいますが、1.52倍ほどにしかなっていないのです。
一人あたりGDPの伸び率の違いから、まだまだタイは経済的に伸びる可能性を秘めていることがわかるかと思います。
タイはおいしい物好き?
経済的に余裕の出てきたタイでは、外食や中食をする人たちが増えました。外国料理にも興味を持つ人が増えたタイでは日本料理が人気です。その影響から、地方も含めると日本食レストランの数は毎年10%以上も増え続け、日本食ブームになっています。
多様なジャンルの日本食レストランがタイでは見受けられ、20年12月には4,094の日本食レストランを提供するお店が確認されています(ジェトロ・バンコク事務所調査)。19年に確認されていたのは3,637軒。コロナ禍でも日本食レストランが増えています。
そんなタイの首都バンコクでは、タイ料理に次いで日本食レストランの店舗数が多く、日本食を提供するお店の激戦区です。この日本食ブームのきっかけをつくったのは、日本企業ではありませんでした。レストラン“OISHI(オイシ)ビュッフェ”だといわれています。タイに本社を置くOISHIグループの創業者は、タイ人のタン・パーサコンティーさんです。
すでにタイ進出を果たしている企業
日本の外食企業も、例えば次のような企業(店)がタイに進出してビジネスを展開しています。大戸屋といえば、日本では定食屋のイメージが強いですが、タイでは高級和食店として認識されています。企業によっては、日本国内とは多少戦略に変更を加え、人気を獲得しているようです。
他にもタイに進出している企業
- モスバーガー
- ペッパーフードサービス
- 8番ラーメン
- 大戸屋ごはん処
- カレーハウスCoCo壱番屋
コンビニも進出
日本で生活には欠かせないコンビニは、タイ国内でも同様の存在となりました。タイ製製品をメインとする品ぞろえで、タイの人たちの生活に根ざしています。
日本でおなじみのコンビニ運営企業大手のセブンイレブン・ファミリーマート・ローソンも、積極的に進出しています。セブンイレブンに至っては1万2,587店(2021年第1四半期時点)と突出して多く、ファミリーマートが約1,000店舗(20年6月1日現在)、ローソンが140店舗(2021年2月末現在)です。
タイの市場の特色は?
タイビジネスがお勧めできるのは、日本企業のビジネスチャンスとなり得る特色がタイ市場にはあるからです。
第1に挙げられるのが、タイの人たちが非常に親日的である点です。電通が19年に発表したところによると、「日本が好き」と回答した人は回答者の98.3%もいたそうです。
前述の日本食ブームもその表れでしょう。経済的に余裕のある人たちを中心に、本場の味を追求したいと思っているのです。その傾向は所得の高い首都・バンコクで暮らす人たちに強く、食品に使うお金も大きくなっています。
日本の食品フェアなどがタイでしばしば開催されるのも、日本食ブームが要因です。現在、日本からの食品輸入量は、東南アジア諸国連合(ASEAN)地域の中で最多です。
タイは日本から農林水産物をたくさん購入している
また、タイ国内から、加工食品が世界中に輸出されてもいます。まじめな国民性と安価な人件費に加え、原材料に恵まれることから、タイでは食品加工業が盛んです。原材料は海外から輸入しています。タイ国内で消費される以上の食品加工製品を生産しているのです。
日本からも多くの食品や農林水産物が、タイに輸入されています。日本側から見るとタイは、日本の食品・農林水産物を買っていただける得意客の1つ。日本からの20年農林水産物輸入金額は、世界で7番目に多かったのです。
その輸入総額の54.3%を占める輸入品目が、主に加工原料として用いられる水産物でした。中でも、最も金額が大きかったのはまぐろとかつおです。輸入総額は90百万ドルでした。豚の皮(原皮)30百万ドル、いわし30百万ドル、さば29百万ドルと続きます。
新型コロナウイルスの影響はあったが、入国規制は解除
これからのタイ進出を考える上で最も気になるのは、新型コロナウイルスのタイ経済への影響ではないでしょうか。現地での輸入ビジネスを検討しているのであれば、なおのことでしょう。
感染拡大前、2011年の大洪水や2014年のクーデター発生年などを除いて、タイ経済は前年より毎年大きくなり続ける場合がほとんどでした。とはいうものの、新型コロナウイルスに勝てなかったのは諸外国と同様です。
タイ国内で初めて感染者が確認されたのは、2020年1月13日。日本より、1日早かったのです。
それから約2か月後の3月15日に、タイ国内の感染者数合計の100人超えが確認されてからは、感染拡大も急速に進みました。そして、同年8月中頃には、1日あたりの新規感染者数は20,000人を超えるようになりました。
それでも、前月中頃以降から強化を始めた都市封鎖やワクチン接種が功を奏します。同年12月には、都市封鎖も解除されました。2022年4月22日には、翌月5月1日からの新型コロナウイルス入国規制緩和をタイ政府が決定。
これにより入国規制は、ほとんどなくなりました。
タイ経済の回復基調が指標に現れている
タイ国内のこの情勢は、経済指標にも表れています。
2019年のタイの実質GDP成長率は対前年比+2.4%でした。これが、感染拡大から経済が停滞した2020年は、対前年比-6.2%と減少。ところが、2021年の実質GDP成長率は、対前年比で1.6%増えています。
タイの感染状況は、明らかに落ち着きを見せ始めています。2022年の実質GDP成長率も、NESDC(タイ国家経済社会開発委員会)は+3.5%~4.5%を見込んでいます。
また、タイ中央銀行の予想も3.4%のプラス。さらに以下は、世界的専門機関・銀行・日本企業に所属する専門家の22年タイ成長率予想です。いずれもタイの主力産業である観光業の復活に懸念を示してはいるものの、すべてがプラスで期待が持てます。
- IMF(国際通貨基金)→+4.5%
- IBRDとIDA(世界銀行グループ)→+3.6%
- ADB(アジア開発銀行)→+3.9%
- 松浦大将氏(みずほリサーチ&テクノロジーズ主任エコノミスト)→+4.1%
- 熊谷章太郎氏(日本総合研究所・主任研究員)→+2.1%
- 鈴木浩史氏(三井住友銀行・市場営業統括部エコノミスト)→+3%台前半
- 大垣共立銀行→+4%程度(ワクチン接種による感染者数減少とタイ政府の海外観光客受け入れ体制の進展次第)
その2に続きます。